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横浜地方裁判所 平成3年(わ)476号 判決

本籍

横浜市鶴見区上末吉四丁目六番

住居

同区上末吉四丁目六番二〇号

鮮魚小売店経営

金井清

昭和八年五月二九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺坂衛出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金六〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、鮮魚小売業を営むかたわら、営利の目的で継続的に有価証券売買を行っていたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外したり、有価証券売買を架空名義、他人名義で行う等の方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六一年分の実際の総所得金額が一億一二〇万六九九六円(別紙(1)修正貸借対照表、(4)脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、同六二年三月一六日横浜市鶴見区鶴見中央四丁目三八番三二号所在の所轄鶴見税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の総所得金額が三七〇万三四〇〇円で、これに対する所得税額は、既に源泉徴収された税額を控除すると九万七九三〇円の還付を受けることになる旨の虚偽の所得税確定申告書(平成三年押第二〇八号の3)を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五七五一万六〇〇円と右申告税額との差額五七六〇万八五〇〇円(別紙(4)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和六二年分の実際の総所得金額が一億一四〇四万五一八一円(別紙(2)修正貸借対照表、(5)脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、同六三年三月一五日、前記鶴見税務署において、同税務署長に対し、同六二年分の総所得金額が三八二万五〇〇〇円で、これに対する所得税額は、既に源泉徴収された税額を控除すると一三万七六五〇円の還付を受けることになる旨の虚偽の所得税額確定申告書(平成三年押第二〇八号の2)を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額六〇〇六万七一〇〇円と右申告税額との差額六〇二〇万四七〇〇円(別紙(5)脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和六三年分の実際の総所得金額が一億三九四二万七五八一円(別紙(3)修正貸借対照表、(6)脱税額計算書参照)であったにもかかわらず、平成元年三月一五日前記鶴見税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が二二〇万六六〇〇円で、これに対する所得税額は、既に源泉徴収された税額を控除すると一五万三六〇〇円の還付を受けることになる旨の虚偽の所得税確定申告書(平成三年押第二〇八号の1)を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額七三七八万九八〇〇円と右申告税額との差額七三九四万三四〇〇円(別紙(6)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  金井順子(二通)、金井浩一(四通)、金井洋二(二通)、金井めぐみ、彦坂昇一、皆川恒穂、北絛昇(二通)、柴田浩司、河村就生、小林二郎、馬場宗孝、野田賢一、近藤伸太郎、山崎康郎及び金丸春一こと金春一の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  鶴見税務署長宮興作成の証拠品提出書

判示冒頭の事実について

一  金井キヨミ(二通)、町山順一及び小林由治の大蔵事務官に対する各質問てん末書

判示第一、第二、第三の事実について

一  大蔵事務官作成の各調査書

判示第一の事実について

一  押収してある昭和六一年分の所得税の確定申告書(金井清)等一袋(平成三年押第二〇八号の3)

判示第二の事実について

一  押収してある昭和六二年分の所得税の確定申告書(金井清)第一袋(平成三年押第二〇八号の2)

判示第三の事実について

一  押収してある昭和六三年分の所得税の確定申告書(金井清)第一袋(平成三年押第二〇八号の1)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、各年分ごとに所得税二三八条一項に該当するので、判示各所為についていずれも所定の懲役と罰金とを併科することとするが、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金六〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、鮮魚小売店を営む被告人が、老後の資産を増やそうと毎日の売上の一部を除外してタンス預金とし、またそれを元手に他人名義を利用するなどして有価証券売買等を行った上、これらによって得た所得を秘匿し、三年分の所得税一億九一七五万六六〇〇円を免れたという事案であるが、そのほ脱額が一億九〇〇〇万円余と多額である上、正確な帳簿を作成せず、虚偽の仕入、売上を記入したノートを税理士に提示して、虚偽過少の所得税確定申告書を作成してもらい、これを所轄税務署に提出して、源泉所得税を還付を受け、ほ脱率はいずれも一〇〇パーセントを越えるというものであってその犯行態様は悪質である。しかも、被告人は昭和四九年ころから長年にわたり本件と同様に税理士に記入内容虚偽のノートを提示して過少申告を行っており、被告人の脱税という行為に対する規範意識の欠如は著しいものがあると考えられ、その刑事責任は重いといわざるを得ない。しかし、被告人は本件各犯行について修正申告を行い、本税や重加算税等をほぼ納付し、また個人で経営していた鮮魚小売店を法人組織にし、帳簿類を整備して毎日の仕入金や売上金を管理するとともに、株式や不動産等の管理についても税理士の指導を受けて処理するなどその経理事務を改善していること、平成二年度の納税申告は適正に行っていること、当公判廷において、被告人が自己の犯行を真摯に反省している様子が窺われること、さらに被告人にはこれまで前科前歴がないことなど被告人に有利な情状もあるので、以上を総合考慮した結果主文のとおり量刑した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山忠雄 裁判官 高橋正 裁判官 川端公美)

別紙(1) 修正貸借対照表

〈省略〉

別紙(2) 修正貸借対照表

〈省略〉

別紙(3) 修正貸借対照表

〈省略〉

別紙(4)

〈省略〉

別紙(5)

〈省略〉

別紙(6)

〈省略〉

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